こんにちは。ザ・ゲートホテル京都高瀬川のスタッフです。さて、「京都の伝統工芸」と言われてまず最初に思い浮かぶものと言えば、「西陣織」という方が多いのではないでしょうか?令和になったいまの時代も、西陣の街を歩けば、”カシャンカシャン”と織機の音が聞こえてきます。今回はそんな伝統工芸である西陣織を現代に引き継ぎながら、新しい挑戦を続ける織元「京都西陣ふくおか」を紹介いたします。
「京都西陣ふくおか」とは
1902年(明治35年)、西陣の地に「福岡金次郎商店」として創業し、以来120年もの長きにわたり西陣織の伝統を守り続けてきた「京都西陣ふくおか」。現在、四代目である福岡裕典氏が代表を引き継ぎ、伝統工芸士として昔ながらの西陣織を守り続ける傍ら、現代のニーズに合わせた革新的な商品の制作にも力を入れています。また、四代目女将である福岡斗紀子氏は地元ラジオへの出演やイベントのゲストスピーカーなどを通して西陣織の普及活動に励むなど、二人三脚で「京都西陣ふくおか」を、そして西陣織の文化を支え続けています。
「西陣織」ってどんな織物?
西陣織とはどのような織物のことを指すのかをご紹介する前に、まずは織物の名称ともなった「西陣」という場所がどのような場所なのかを紐解いていきたいと思います。
「西陣」とは、京都市上京区から北区にわたる地域を指す名称ですが、現在「西陣」という名称を用いた行政区域は存在しません。つまり、”西陣通り”があるわけでも、住所に”西陣”という名称が入る場所が存在するわけでもないのです。では、「西陣」とはどのような場所なのでしょうか?
この「西陣」という名称の起源は、実はいまから500年以上も前に起こった「応仁の乱」にさかのぼります。足利家の後継者問題を起因としたこの応仁の乱は、有力大名の細川氏、山名氏を巻き込み、東軍・西軍に分かれての全国的な戦いに発展します。このとき、西軍総大将である山名宗全らが堀川通今出川の北西あたりに本陣を構えたことにより、この地域は「西陣」と呼ばれるようになります。
このあたりは平安時代には宮廷御用の「織部司(おりべのつかさ)」と呼ばれる織物職人が多く住む地域だったこともあり、応仁の乱後には各地へ離散していた職人たちがこの地へ戻ってきます。やがて、この職人たちの手でつくられる色鮮やかな美しい織物は、地名にちなんで「西陣織」と呼ばれるようになり、現代では京都の伝統的な産業の代名詞と言っても過言ではないほどの地位を確立します。
さて、それでは西陣織はどのような織物なのでしょうか?
西陣織とは、京都の西陣地域で生産される先染めの紋織物のことを指します。
「先染め」とは、先に糸を染めてから、異なる色を組み合わせて柄を織り、最終的に1枚の生地に仕上げていく織り方を指します。糸にしっかり色を入れ込んでから織っていくため色落ちしにくく、また深みのある色を出すことができることが特徴です。その反面、緻密な意匠図や根気のいる繊細な手作業が必要なのも、先染め織物の特徴と言えます。
西陣織はその中でも「西陣織で織れないものはない」と言われるほど、多種多様な美しい紋様、色合いが特徴的。この西陣と呼ばれる地で、いかに優れた技術が代々受け継がれ、そして発展を遂げてきたのかがうかがい知れます。
「京都西陣ふくおか」の歩み
「京都西陣ふくおか」は、1902年(明治35年)に洋生地を扱う「福岡金次郎商店」として、西陣の地に誕生しました。当時は1,000坪を誇る広大な敷地を有し、非常に大きな工場だったそうです。大正時代に入ったころ、創始者である福岡金次郎氏の手によって、西陣で初めてジャカード織機が導入され、これまですべてを手作業で進めていた織物に革新をもたらします。
1940年代の第二次世界大戦下においては政府の軍事指定部品工場として機能していた時期もありましたが、戦後はストールやネクタイ、マフラーなどの製造を開始。1950年代半ばには当時のソ連などへの輸出も開始します。1970年代頃より帯生地の生産にも力を入れ始め、西陣織の伝統と新しい文化を融合させた商品を多数輩出。1998年に福岡裕典氏が四代目を継いだあともその革新的なチャレンジは続き、なかでも西陣織の繊細な紋様と軽くて強度のあるカーボン繊維を併せた織物「西陣カーボン」は多岐に渡る商品を展開しています。
時代に先駆けた新しいチャレンジを続けてきた「京都西陣ふくおか」。現在は、SDGsへの取り組みの一環として、リサイクル素材の繊維を使用した製品の制作にも取り組んでいるそうです。西陣織の伝統を次の新たな時代のニーズへつなげる取り組みは、これからも続きます。
帯などの和装だけでなく、ジャカード機でどんなものでも織ろうと、工業用カーボン織物を開発し新事業として展開しています。またアーティストへの技術提供や織物を使った製品開発にも協力しています。初代当主が時代に先駆けて西陣にジャカード機を取り入れたように、私はこれからも挑戦し続けます。
京都西陣ふくおか 公式ホームページより
工場見学に行ってきました!!
「京都西陣ふくおか」では、事前申し込みをおこなえば工場の見学をしていただくことができます。この度、ザ・ゲートホテル京都高瀬川のスタッフが工場の見学に伺ってきましたので、西陣織の制作の様子を少しだけご紹介させていただきます!!
まず、今回工場をご案内いただいたのは、自他ともに認める「京都西陣ふくおかの歩く広告塔」、福岡斗紀子女将。地元ラジオへの出演やイベントのゲストスピーカーなどを通じて、「京都西陣ふくおか」についてはもちろんのこと、西陣織を広く認知していただくための活動をされています。西陣織の歴史、制作方法、そしてその魅力を女将に解説していただきながら、実際に工場内を見学させていただきました。
まず、西陣織で使用する糸をジャカード織機に設置するために、糸枠に1本1本巻きつける「糸繰(いとくり)」という作業を見学させていただきました。誤って絡まってしまったりすると糸自体が使用できなくなる恐れがありますので、注意を払っておかなければなりません。
<動画:糸繰の様子①>
<動画:糸繰の様子②>
次に、実際にジャカード織機を使用した機織りを見学させていただきました。大きな織機が立ち並ぶ姿は迫力満点!カシャンカシャンという音とともに少しずつ織物が出来上がっていく様子は圧巻です。
ジャカード織機での機織りには3,000~8,000本の経糸をかけ、そこに「杼(ひ)」と呼ばれる道具に入った横糸をかけていき、ひと織ずつ織っていきます。経糸と横糸の密着度をあげるため、横糸を濡らして織る「濡れ緯(ぬれぬき)」と呼ばれる技法で織り進めていくのですが、糸が乾いたときの生地の大きさや絵柄にズレが生じず均一になるように、等間隔に「機針(はたばり)」と呼ばれる竹の留め具を織物の耳に引っかけていきます。
また、実際の紋様は職人さんが見ている面とは逆の面にあらわれます。職人さんは制作中の織物の下に置いてある鏡を見ながら、紋様にズレや歪みがないか、設計図通りに進んでいるかを随時チェックし、織り進めていきます。
「杼」の動きは非常に速いため、織機を止めたり動かしたりするタイミングが少しでもズレてしまうと意匠図通りにいかずやり直しをすることとなり、また糸も使用できなくなってしまうとのこと。職人さんたちの長年の勘と熟練の技があってこそ、ジャカード
織機を使いこなせるのですね。
<動画:機織りの様子>
このジャガード織機は、織物の意匠図に基づきダンボールのような素材に穴を開けてつくられる「紋紙(もんがみ)」という設計図をもとに「杼」を動かしています。現代ではフロッピーディスクに意匠図を入れて指示を出すタイプや、SDカードを使用するもの、またジャカード織機をパソコンにつなげて動かしているタイプもあるそうです。
これだけの手間暇をかけても、1日に織れるのは数メートル、難しい素材や設計図の場合は1~2メートルしか進まない場合もあるとのこと。そして、できあがった織物は寸分の違いもなくピタリと意匠図通りの美しさ。熟練された技、そして根気や集中力が必要な作業だとおわかりいただけると思います。
西陣織はもともと完全分業制で、「杼」を作る職人、「紋紙」をつくる職人、「機針」をつくる職人など、ひとつの帯を制作するにも、熟練の技を持った職人さんたちがたくさんかかわっていました。しかし、戦後は西洋の文化が日本でも取り入れられるようになったことで着物を普段着として着用する人が格段に減ってしまい、それぞれの職人さんの後継者が少なくなってきているそうです。だからこそ、時代の変化に即したニーズに柔軟に対応し、西陣織を新たなスタンダードとしてどんどん広めていきたい、と福岡夫妻は語ります。
「あなたのためにつくる」という想いをもとに、セミオーダー式のオリジナルの西陣織を制作できるのも「京都西陣ふくおか」の魅力のひとつ。京都旅行の想い出として、そして一生物の帯として、この世にひとつだけのお好みの西陣織をお買い求めいただいてはいかがでしょうか。
Visiting Information
- 店名 京都西陣ふくおか
- 住所 602-8471 京都府京都市上京区一色町35-7
- TEL 075-441-0235
- URL https://fukuoka-k.co.jp/
- 営業時間 8:00~18:00(見学は10:00~17:00、事前予約制)
- 定休日 土日祝
*営業時間、休日など、最新の情報は直接、お店にお問い合わせください。